超積層圧延法を利用したTiNi系形状記憶合金フォイルの作製 |
現在実用に用いられている形状記憶合金は殆どがTi-Ni合金です。これはこの合金が形状記憶特性・超弾性・疲労特性に優れ,加工熱処理で特性の制御が可能だからです。 しかしTi-Ni合金にも幾つかの欠点があります。例えばこの合金は加工硬化が大きい難加工材料です。現在市場に流通しているのは殆どが線材やコイルで,薄板やフォイルは圧延にかかるコストが高くで入手が難しく,これまでに実用されている例は殆どありません。またMEMS(Micro ElectroMechanical Systems)やマイクロ化学分析システム(μ-TAS)用マイクロポンプ等への応用を目指し,スパッタリングでTi-Ni合金薄膜を作製する方法も研究が非常に盛んで,良好な形状記憶効果が得られており,これを利用したマイクロマシンも試作されています。この方法はSi基板上に材料を作製する場合には非常に有効ですが,作製可能な材料の厚さ・大きさに限界があり,通常用途の材料には不向きです。 そこで我々は日本金属工業(株)との共同研究により,特殊な設備を用いずに通常の圧延設備を利用して低コストでTiNi系形状記憶合金の薄板・フォイルを作製する方法を開発しました。この方法では、まず純Ti・純Ni板を交互に200枚程度積層したものを鉄製容器に真空封入します。この材料を熱間圧延・冷間圧延してTi/Niの多層材料とし、その後拡散熱処理を施すことで合金化します(図1)。 図1 超積層圧延法 図2はこの方法で得られた厚さ50μmのTi/Ni積層材料の写真です。この方法では幅約6 cm、長さ数mの長尺材料が既存の圧延装置で作製できます。 図2 Ti/Ni超積層材料 図3は圧延後の多層材料の縦断面のSEM写真と,その後の拡散熱処理による組織変化を示してあります。圧延直後のTi層, Ni層の厚さはそれぞれ約680 nm,150 nmです(図3(a))。この多層材料を1073 Kまで徐々に昇温し(図3(b)-(d)),10時間保持する事で合金化します(図3(e))。TiとNi の拡散係数が大きく異なるため、拡散処理初期にはNi層の周囲にKirkendall voidが生じます。拡散が進むとTi2Ni,TiNi3と共に形状記憶効果を示すTiNi相が生成します(図3(b, c))。さらに長時間熱処理することで試料全体をTiNi相にすることができるのです(図3(e))。 図3Ti/Ni積層材料の拡散処理による組織変化 次の写真は花形の形状に形状記憶処理したTiNiフォイルの加熱・冷却による形状変化を示します。
この研究についての新聞記事 インテリジェント材料フォーラム高木賞受賞(2002年3月) MRS-J講演大会奨励賞受賞(D. Tomus君,2002年12月) ←研究テーマのページに戻る ←材料機能制御研究室メインページに戻る |