機械工学課程 杉浦 幹亮
実務訓練機関 Kasatani Advance Technology Sdn.
Bhd.
海外で実務訓練を行った理由
私は,将来に海外の企業と取引を行うもしくは出向する場合,非常に有益な経験になると考え,海外での実務訓練を志望しました。また,知り合いの社会人の方に,海外に行き,他国の文化,言語,考え方を学び,広い知見を持つことを勧められた経験も理由の一つです。GAC学生であり,海外実務訓練は必修であったという理由もありますが,海外への関心の方が大きかったように思います。海外で実際に英語を共通の第二ヶ国語として使った経験が,今後の英語学習のモチベーションにつながるという期待もありました。研究室では,塑性加工の中でも大きなひずみを材料に導入し,微細結晶粒金属を作製できる,形状不変巨大ひずみ加工に関する研究を行っていました。そのため,塑性加工を用いた大量生産の現場に関心を持ち,Kasatani Advance Technology Sdn. Bhd.様を志望しました。実務訓練の目的としては,海外における塑性加工技術を知るとともに,海外で働くエンジニアの方々と交流を持つことを考えていました。
実務訓練先機関の紹介・実習
プレス加工,射出成型およびパーツアセンブリにより,自動車部品,樹脂製品を生産している会社です。自動車部品としては,主にワイパー用の部品を生産しています。樹脂製品は半導体,センサー,携帯電話やオーディオ機器等に利用されています。自動車用部品の品質管理システム規格であるIATF16949 ISO9001および環境管理システム規格であるISO14001を取得し,日系企業をはじめ,さまざまな企業と取引されています。実習は,Quality assurance and control (QA/QC),Engineering,Die and facility maintenance team (DFMT),Productionの4つの部署にて行いました。QA/QCは,大量生産品の品質チェックとカスタマークレームの対応を担当しています。Engineeringは生産プロジェクトの立ち上げと金型の管理を担当する他,IATF・ISO規格準拠のための書類管理業務も行います。DFMTは金型を担当するDMT(Die
maintenance team)工場内設備を担当するFMT(Facility
maintenance team)に分けられます。DMTは金型の定期メンテナンスおよび損傷した金型の修復を行います。FMTはプレス機械や天井クレーンといった工場内設備の定期点検や修理を担当します。Productionは実際の生産を行う部署で,大きくワイパー部品(WIP),プレス加工部品(Press),射出成型(Injection moulding, IJM),パーツアセンブリに分けられます。
配属初日は,会社の就業規則や安全管理について説明を受けました。QA/QCでは製品の寸法測定と測定マニュアルの作成を行いました。製品の寸法測定には,ノギス,マイクロメータ―,ピンゲージ,ハイトゲージ等の基本的な測定機器の他,プロファイルプロジェクターや三次元座標測定機といった大型の測定機械を使用しました。また,実際のカスタマークレーム対応について説明を受け,大量生産の現場における問題解決の方法について学びました。Engineeringでは生産技術や生産プロジェクトの立ち上げ,プレス金型やIATF16949について学びました。また,金型メーカーのT & P Mould Industry Sdn. Bhd.様の見学に行きました。DFMTではDMTとFMTのそれぞれで業務の補助を行いました。DMTでは金型の分解・清掃・組み立ての他,ワイヤー放電加工機について学びました。FMTでは,会社におけるFMTの役割について学び,プレス機や脱脂機の点検・修理を行いました。Productionではワイパー,プレス,射出成型の各生産部門を見学しました。また,生産計画と作業改善について学び,製品検査および梱包の補助を行いました。
実務訓練を通じて,国籍,言語,文化の違いを乗り越えて働く方々と交流し,非常に感銘を受けました。また,仕事だけでなく,会社の創立記念パーティに参加させていただいた他,プライベートでもお食事に招待していただくなど,海外の文化について学ぶとともに,会社の方と非常に暖かく交流することができました。
現地での生活
宿泊先はTropicana Bay Residenceでした。日本人学生3人,マレーシア人留学生1人と共同で生活を送りました。宿泊先から歩いて15分ぐらいの場所にある,イオンクイーンズベイモールをよく利用していました。休日の移動には,タクシー配車アプリケーションのGrabを利用しました。会社の食堂は,朝食が2リンギット,昼食も4リンギット程度でした。朝食としては,主にミーゴレン,ナシゴレンを食べました。昼食はエコノミーライスで,種類も豊富でした。
マレーシアについてのアドバイスになりますが,言語については,現地のほとんどの方に英語が通じます。ただし,第一言語はマレーシア語ですので,基本的なマレーシア語(あいさつ,数字,食べ物の名前)は事前に知っておいた方がよいと思います。イスラム教の方が多いためか,現地では男性も肌の露出は少ない印象でした。気温は高かったので,現地では半袖,長ズボンで外出していました。観光の際は特に,熱中症にならないようにこまめな水分補給をお勧めします。外を歩く際ですが,日本より横断歩道や歩道橋は少ないです。また,バイクが非常に多いので,道を渡る際に走るとかえって危険です。車の間から出てくるバイクには特に注意してください。歩行者優先ですので,道を渡る際はゆっくりと注意しての移動をお勧めします。治安は良いと思いますが,海外なので油断しないでください。通信についてですが,SIMフリー携帯を準備し,現地で購入したプリペイドSIMの使用をお勧めします。電話会社はMaxisとCelcomを利用していました。プリペイドのチャージ(現地では「トップアップ」と言います)はコンビニエンスストアで簡単に行えます。食事に関しては,辛い食べ物が中心となりますが,果物も豊富です。イオンモール等のショッピングセンターにおいてはマレーシア料理や中華系料理はもちろん,日本食も食べられます。屋台ではショッピングセンターより安く食事ができますが,食べ物についてある程度知識がないと難易度が高いかもしれません。
観光についてですが,ペナン島は観光地であり,ジョージタウンを初め魅力的な場所が多くあります。休日を利用して様々な場所をめぐることができます。チャイニーズニューイヤーには,マレーシアの首都クアラルンプールに行きました。ペトロナスツインタワーからの景色は非常に美しいため,時間があれば観光をお勧めします。
海外実務訓練を考えている学生へ
海外に行く場合は,英語でのコミュニケーションスキルが最低限必要かと思いますので,まずは英語学習に力を入れることをお勧めします。語学留学ではないので,現地で学ぶのでは正直間に合わないと思います。マレーシアでは英語は第二ヶ国語ですので,現地では「正確な英語」以上に「コミュニケーションツールとしての英語」が求められます。まずは英語の授業や留学生との交流を通じて,英語を使ってみることをお勧めします。
企業様は「学生が学びたいことを提供できるか」について特に気にされています。「自分が実務訓練を通じて何を学びたいのか」を明確にしてマッチングを行うとともに,企業様と事前に十分にやりとりを行えるとよいかと思います。
最後に,個人的に入国査証についてですが,取得に時間がかかる場合があるため企業様とよく相談して進めた方がよいと思います。特に,マレーシアの就労ビザSVP-T取得のためには,企業様がESDを取得している必要があります。ESD取得には何ヵ月という時間がかかりますので,近年に受け入れ実績のない企業様の場合,ESDについて確認した方がよいと思います。