金属材料は塑性変形(ひずみ)を加えることで、転位が増加し、また、結晶粒が微細化することにより強化できる。しかし、従来の加工(例えば圧延や伸線加工等)では試料形状が加工に伴って減少するため、導入できる歪量に限界があった。近年、形状不変加工と呼ばれる、加工しても試料形状が変化しない加工方法が開発された。その一つにHPT(High-Pressure Torsion, 高圧下ねじり)加工法があり、この方法では歪量を無限に導入可能である。また、結晶粒微細化に影響を及ぼすと考えられる歪勾配や歪速度, 雰囲気温度等も個々に制御できる。そのため、100nm程度に結晶粒を微細化させたサブミクロン結晶粒材料を作製できる(図3)とともに、結晶粒微細化・ナノ結晶粒化のメカニズムが明らかになりつつある。 また、形状不変巨大ひずみ加工で作製した材料においては、従来では観察されなかった特異な組織や特性を有することが明らかと成りつつある。例えば、図4に示す粒A, Bのように、転位(方位差 = GN転位)を殆ど含まない結晶粒が塑性変形のみで形成する。通常、このような組織は加熱することによって生じる。力学特性においては、一般に高強度化した材料の延性は減少するが、巨大ひずみを付与することで一度減少した延性が回復する。結果として、高強度・高延性を両立した非常に優れた力学特性をもつ材料が得られる(図5)。これらの特異現象は巨大ひずみ加工により導入される高密度格子欠陥に起因すると考えられる。巨大ひずみ加工における加工因子・材料因子を系統的に変化させ、特異現象発現のメカニズムの解明を行っている。